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2012.12.03

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NSCAジャパン・カンファレンスでポスター発表しました

 

 

NSCAジャパン S&Cカンファレンス2012が、2012年12月1日(土)2日(日)に早稲田大学所沢キャンパスで開催されました。

 

スーパーKアスリートラボから、北見裕史が「自転車走行時の空気抵抗と出力の関係」についてのポスター発表と、新田恵斗との共同研究で「バスケットボールのウォームアップにおける肩関節の可動域」についてのポスター発表をしました。

 

かねてから、自転車に関する文献は少なく、それならば先にペーパーを作成して興味を持っている人たちを募って情報を集めることを考えました。

自転車走行中の運動強度は走行タイムや心拍数で確認していましたが、2年ほど前からSRM(トルクゲージ)を用いて出力をチェック!乗車フォームや風向き、気象状況など気にせずに数値化できるので、選手の調子を客観的に見るには好都合でした。

自転車は、ご存じのとおり空気抵抗との戦いで、機材、ウエア、ヘルメットなど何をとっても空気抵抗を考慮したものばかりですが、ライディングポジションも大きくかかわるのではないかと、一つ布石を投げてみました。

 

実験した結果、驚いたことに上ハンドルポジションと下ハンドルのポジションでは、40km/h走行で30%も出力に違いがありました。ストレングスで30%アップさせることはかなりの努力が必要ですが乗車姿勢を深くすることは、できるのではとの考えから、これを題材に発表することにしました。

 

もう一つは、横浜YMCAスポーツ専門学校の非常勤をしていて北見ゼミでの論文が社会でどのくらい通用するか確かめてみたかったので共同研究として併せてポスター発表しました。

 

今回、初挑戦でポスター作成から戸惑い、想像以上の苦戦をしました。また、発表内容に関しまして、皆様のご意見が聞きたく存じます。何かございましたらご気軽にご連絡お願い致します。

 

 

自転車走行時の空気抵抗と出力の関係

北見裕史 CSCS(スーパーKアスリートラボ)

 

第1章 目的

自転車走行時における抵抗は,時速15Km/hを超えると走行抵抗より空気抵抗が大きくなるといわれている1).そのため自転車競技で使用される自転車は,さまざまな空気抵抗軽減の対策が施されている.また走行時の空気抵抗の80%は身体が受ける抵抗といわれている1).そのため自転車競技におけるライディングポジションは,なるべく上体を低くし,表面積を小さくして空気抵抗を減らして,且つスピードが上がるように考えなければならない2.3).そこで,本研究は,走行中のライディングポジションが出力に対しどの程度影響を及ぼすのか?その影響をストレングス&コンディショニング専門職はどのようにプログラムデザインに反映する必要があるかを検討することを目的とした.

 

第2章 対象・期間・場所

対象:競輪選手(S級1班)男性.年齢31歳.身長166.0cm.体重71.5kg.期間:2012年7月29日.場所:東京都調布市.京王閣競輪場400mバンク.天候:晴れ.気温27.0℃.湿度62.0%.

 

第3章 方法

NJS規格のトラック競技専用自転車(マキノ社製スチールフレーム)を用い.バンク上方(外側)を400m助走後下方(内側)に向かい下り坂を利用して加速し,200mの区間を速度40km/hで一定走行する.その時のペダルにかかる出力(W)をSRM社製(トルクゲージ)を用いてペダルにかかる出力を0.5秒毎に計測測定し,その出力に移動平均をかけて算出する.乗車姿勢は,ハンドルを握る基本となる位置を3種類考え,それぞれをポジション1.ハンドル上部フラット部分を握る. ボジション2.ブラケットの位置を握る. ポジション3.ハンドル下部を握るとする(図1.に示す).ハンドルは日東製B127クロモリハンドル(幅360mm.リーチ92mm.ドロップ173mm)を用いる.クランクはSRM社製165.0mm.ギヤは50T×15Tとする.ヘルメットはNJS公認DICヘルメットを使用する.ウエアはパールイズミ社製ロード半袖ジャージを使用する.上記の実験方法で,3つのポジションを3回ずつ走行し各ポジションでの出力を,統計的に比較検討する.

ポジション1. ポジション2. ポジション3.

 

第4章 結果

ポジション1.では,209.2±8.4Wボジション2.では,180.4±11.0Wポジション3.では,141.6±12.9Wであった.ポジション1.とポジション2.の差は28.8W. r=0.67,p<0.01有意であった.ポジション1.とポジション3.の差は67.6W. r=0.59,p<0.01有意であった.ポジション2.とポジション3.の差は38.8W. r=0.84,p<0.01有意であった.

 

第5章 考察

自転車走行時において,ライディングポジションを考えることは,正面から受ける空気抵抗に大きく影響することが分かった.またその影響度合いは,リラックスした時にとるポジション1.に対しスプリントダッシュをする時にとるポジション3.とは32.3%の差があることから,そのポジション3.で最大出力を発揮するようにする必要があると思われる4).また,自転車競技では,先行する選手の後方を追走することで自動車およびバイクレースと同様にスリップストリームが生じ,同じく出力を軽減することができる.以上のことから,自転車競技におけるライディングポジションは,出力に大きく影響することから,そのポジションでどれだけのパフォーマンスが発揮できるかを考えなければならない.そこで,ストレングス&コンディショニング専門職は,ピリオダイゼーショントレーニングを考えるときに,筋肥大,最大筋力,パワー向上のためのトレーニングはもちろん必要であるが,自転車走行時の深く前傾をとるライディングポジションで出力発揮する必要があるため5),プレシーズン期に取り入れるファンクショナルトレーニングは,走行中のポジションを考慮したプログラムデザインを考える必要があると思われる6).そして,インシーズン期へのベストパフォーマンスを期待したいと考える.

 

第6章 現場への応用

今回の実験結果から,自転車競技選手のプログラムデザインを考えるストレングス&コンディショニング専門職は,プレシーズン期に取り入れるファンクショナルトレーニングメニューを考える際に,その選手のライディングポジション及び使用するパーツの特徴を知り,ベストなライディングポジションで高出力を発揮できるように考えなければならない.

 

第7章 研究課題

今回はライディングポジションによる出力の違いを実験したが,追走及び集団走行時に起きるスリップストリームが,どのくらいの出力に影響するかを検討したいと考える.また,体格差,性差の影響を検討したいと考える.

 

第8章 引用参考文献

1)ふじいのりあき(2008)ロードバイクの化学.スキージャーナル株式会社:pp.16-23

2)ショーン・ケリー(2009)The Roadbike Racing.スタジオタッククリエイティブ:p32

3)大築立志(1977),スキーの体力医学的研究.第51回日本体力医学会:p37

4)Shannon Sovndal,MD(2011)Cycling Anatomy.Human Kinetics:p97

5)ヴォルフラム・リントナー(2012),ポジションで押さえるべき4つの重要ポイント.ロード競技トレーニング.:p254

6)Thomas R.Baechle,Roger W.Earle(2010) NSCA決定版(第3版)ストレングストレーニング&コンディショニング,ブックハウス・エイチディ:pp.422-423

 

 

バスケットボールのウォームアップにおける肩関節の可動域

新田恵斗 北見裕史 宮本倍幸(YMCAスポーツ専門学校)

 

第1章 目的

バスケットボールは,筋力,パワー,持久力及びテクニックが必要なスポーツである.それに加え,試合直前のウォームアップで肩関節の可動域を広げることができれば,リバウンドボールを取る範囲も広がり競り合いに有利と考えた.

そこで本研究は,何が肩関節の可動域を広げる要因であるかを明らかにすることを目的とし,実際に試合直前のウォームアップで活かすことができればと考えた.

 

第2章 対象・期間・場所

横浜YMCAスポーツ専門学校の学生37名年齢19.8±1.1歳.身長167.2±7.6cm.体重60.6±11.1kg.期間.2011年8月1日―12月8日(4ヶ月間)場所.横浜YMCAスポーツ専門学校教室.

 

第3章 方法

A肩関節のアイシング群,B肩関節のホットパック群,C肩甲骨回りのスタティックストレッチ群,D肩甲骨周りのダイナミックストレッチ群の4つに分け,長座位体前屈計測,仰臥位肩関節屈曲計測,座位肩関節自動屈曲計測を実施し,どの群が肩関節の可動域を広げることができるかを,統計的に検討した

 

第4章 結果

Aアイシング群,長座位体前屈測定は,実験前5.7±12.3cmから8.0±12.0cmとなり,統計的に差がなかった.仰臥位肩関節屈曲測定は,実験前171.5±7.4度から170.3±10.8度となり,差がなかった.座位肩関節自動屈曲測定は,実験前113.4±22.3度から132.6±28.3度となり,r=0.60,p<0.05で有意であった.

Bホットパック群,長座位体前屈測定は,実験前3.3±8.8cmから4.8±10.4cmとなり,差はなかった.仰臥位肩関節屈曲測定は,実験前169.4±7.7度から176.1±6.7度となり,r=0.56,p<0.01統計的に有意であった.座位肩関節自動屈曲測は,実験前105.4±21.7度から126.3±18.8度となり,r=0.89,p<0.01有意であった.

Cスタティックストレッチ群,長座位体前屈測定は,実験前6.2±8.5cmから9.1cm±9.3cmとなり,r=0.88,p<0.01有意であった.仰臥位肩関節屈曲測定は,実験前171.8±6.8度から174.6±7.3度となり,r=0.68,p<0.05有意であった.座位肩関節自動屈曲測定は,実験前117.6±24.0度から131.3±23.3度となり,r=0.63,p<0.01有意であった.

Dダイナミックストレッチ群,長座位体前屈測定は,実験前0.1±10.6cmから4.1±8.1cmとなり,r=0.88,p<0.01有意であった.仰臥位肩関節測定は,実験前172.8±7.0度から177.1±9.0度となり,r=0.65,p<0.05有意であった.座位肩関節自動屈曲測定は,実験前122.7±30.5度から136.7±46.8度となり,r=0.91,p<0.05有意であった.

 

第5章 考察

アイシングを10分間行うことは,筋肉が固くなって柔軟性に変化がなかったと考える.ホットパックを10分間行うことは,筋温が上がることで,筋肉が柔らかくなったと考える.物理療法でも,ホットパック療法として,臨床上最も使用頻度の高く利用され,筋緊張の緩和を目的に実施されていることからも可動域を広げると考える1).

スタティックストレッチは,筋肉に対して予想通りのストレッチ効果があったと思われる.また,競技の特性に合わせたスタティックストレッチを短時間で行うことが良さそうであると考える2).

ダイナミックストレッチは,筋温を上げて,関節可動域を広げるために有効と考えられる.また,ダイナミックストレッチの特徴として,反動動作を避け,特定の競技または動作パターンに準じた動きで行われるため,ウォームアップ時に適していると考える3).さらにストレッチ効果として,ペアストレッチ,PNFストレッチも考慮したが,外旋,屈曲の可動域の範囲は,主に靭帯によって決定され,水平屈曲,水平伸展は,自動運動で可動可能な範囲と他者の協力を得て可動な範囲にほとんど差がないとの先行研究から,筋肉が主に関係して可動域を制限しているとは考え難いとの報告4)を考慮し,今回の実験では考えなかった.

また,下半身のパワーを蓄え,高く飛ぶためには必然的に上半身の使い方が重要であることから,肩周りの可動域を広げることで上半身との連動を高めてバスケットにおけるジャンプ動作のパフォーマンスへ良い影響があることを期待する.

 

第6章 現場への応用

バスケットボールにおけるリバウンドボールの取得率を向上させる要因として,筋力,パワー,持久力,技術はもちろん必要であるが,肩関節の可動域を広げることで,リバウンドボールの争いに勝つ事ができる可能性が高まる.

そこで,ストレングス&コンディショニング専門職は,普段のトレーニング時とウォーミングアップに,肩関節の可動域を広げるためのホットパックとダイナミックストレッチ及び短時間のスタティックストレッチを取り入れて,競技パフォーマンスの向上に役立てて欲しいと考える.

 

第7章 研究課題

今回は,学生を対象にバスケットボールの経験に関係なく,実験を行ったが,次回は,バスケットボールの経験により,同様の差が生じるのか,実験したいと思う.また,その他の競技スポーツ経験者に対しても,今回の実験と,同様の差が生じるか,実験したいと思う.

今回は,肩関節に着目したが,類似した臼状関節である股関節でも,同様の効果があるか,実験したいと思う.

今回の実験では,スタティックストレッチとダイナミックストレッチを分けて実験したが,ダイナミックストレッチとスタティックストレッチを組み合わせた,ウォーミングアップも,考えたいと思う.

 

第8章 引用参考文献

1)山崎肇(1994)ホットパック療法における再加熱時間の検討.理学療法学21:p124

2)川岡修明(2008),ウォームアップにおけるストレッチングの違いが反復横跳びおよび15mスプリントに及ぼす影響.川崎医療福祉学会誌17:pp445-448

3)Thomas R.Baechle,Roger W.Earle(2010) NSCA決定版(第3版)ストレングストレーニング&コンディショニング,ブックハウス・エイチディ:pp331-332

4)高橋憲司(2001),セルフマッサージのイメージ想起の有効性に関する研究-肩関節の可動域を指標として―日本体育学会大会号52:p263