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自転車に乗ってりゃ、不調知らず、体調快適サイクリストのススメ【Tarzan掲載 2001年3月28日 346号】

 
 

 ようやく春めいて、再びバイクの季節が巡ってきた。
 単純な話、バイクって楽しい。乗っててスピード感があるし、海へ山へ川へちょっとした遠出もできて、いい気分転換にもなる。
 だが話はそれでは終わらない。バイクは上手に使うと、体調管理に効果的な、最高のコンディショニングマシンになってくれる。
 突然そう言われても、「バイクでコンディション作り?」と不思議に思うかもしれない。
 でも本当の話。たとえば、心臓手術をした患者さんも、術後社会復帰までのリハビリ(これぞ究極のコンディショニングだ!)にバイクを(固定式だけど)利用しているのだ。

ギヤ比とRPEで、自在にメニュー作り

 それでは、どうしてバイクが体調管理に最適なのだろう。
 まず知っておきたいのは、体調作りにエアロビクスが不可欠という事実。エアロビクスとは、酸素をたっぷり吸いながら、長くリズミカルに続ける軽い運動のこと。ウォーキング、ジョギング、水泳、そしてもちろんバイクもエアロビクスに入る。
 エアロは、カラダ全体を使うので、全身の血液の流れが良くなる。その結果、疲れの元となる老廃物が素早く除去されて、代わりに酸素を十分に含んだ新鮮な血液が流れ込む。こうして、細胞一つひとつの新陳代謝が促されて、体調が良くなるのだ。そのうえエアロでは、脂肪を効率よく燃やして運動エネルギーに転換する。この方法だと、運動後に疲労の原因となる乳酸を残さないのである。
 さて、じゃあ数あるエアロのなかでなぜバイクがイチ押しなのか。
 それはカンタンに言うと、運動強度を細かく変えられるから。
 エアロがコンディショニングに最適だといっても、自分に合った強度でやらないと意味がない。負荷が弱すぎると効かないし、強すぎると疲れて逆効果だ。バイクは、ギヤの重さとペダルを回す速さを変えると、負荷を自由に設定できる。各々の体力に応じて、誰でもちょうどいい負荷を見つけ出せるから、術後のリハビリから五輪選手のトレーニングまで、幅広く対応できるというわけ。
 ウォーキングやジョギングも、走る速度を変えると、負荷はいろいろ設定できる。が、自分の体重以下の軽い負荷は作り出せない。その点、バイクはサドルに坐って運動するので負荷はゼロから作ることができる。水泳だと自重からはフリーだが、負荷調節が自由自在というわけにはいかない。あなたがちゃんと泳げて、泳ぐ速度も自在に制御できる達人であることが条件となるからだ。
 そんなバイクの素晴らしさが分かったところで、そろそろ毎日を快適に過ごすための具体的なプログラム作りに移ろう。今回指導してくれるのは、バイクトレーニングのスペシャリストである北見裕史コーチだ。
 最初に理解しておきたいのは、ギヤ比とRPE。どちらもプログラムの重要なファクターである。
 ギヤ比とは、ペダルが付く前のギヤ板の歯数を、後車輪のギヤ板の歯数で割ったもの。前のギヤ板が40で後ろが20なら、40÷20でギヤ比2.0となる。ペダルを一回転させると後輪が2回転するのだ。ギヤ比の数字が大きいほどぺダルは重く、小さいほど軽く感じる。運動強度はこれで調節できるのだ。
 ロードバイクでは、前のギヤ板の歯数は53、39後ろは11、12、13、14、15、17、19、21 、23となっているのが普通。歯数は、ギヤ板の裏面に書いてあるはずだ。変速機で前後のギヤを切り替えたとき、ギヤ比がどう変わるか。エクササイズを始める前に確認しておきたい。
 ギヤ比を大きくするとペダルは重くなるが、1回転でよりたくさん進む。いわゆるストライド走法に向いている。ギヤ比を小さくすると、1回転で進む距離は短くなるが、ペダルが軽くなるのでたくさん回せる。こちらはピッチ走法に最適。両者を組みあわせるとウォーミングアップではピッチを上げ、メインのエクササイズではストライドを伸ばすなど、きめ細かいメニュー作りが可能だ。

週1~3回走ると体調が変わってくる!

 一方のRPEは、運動の強さを「非常に楽である」から「非常にきつい」まで、自覚的な評価で15段階に分けて、それぞれに点数をつけたもの。自覚的運動強度と呼ばれる。コンディショニング目的では、「楽である」から「ややきつい」くらいのゾーンでやるのがちょうどいい。
 さてお勉強が済んだところで。
 ストレッチで下半身を解したら、ギヤ比2.0、RPE7~9の「非常に楽である」から「かなり楽である」で、ピッチを上げてウォームアップを始める。少し汗ばんできたら、ストライドを伸ばしてやや強度アップ。ギヤ比3.0、RPE11~13で「楽である」から「ややきつい」くらいでペダリングする。
 こうして15分間ウォームアップしたら、いよいよメインのエクササイズへ。ギヤ比3.0、RPE15に重くして30分間思いっきり走る。疲れも不調も吹き飛ばすのだ。
 それが終わったら、ウォームアップと同じようにクールダウンして、心拍数を次第に下げていく。最後に再びストレッチで終わり。
 都心の道だと信号や渋滞に邪魔されるので、河原や公園のバイク専用コースなどを走った方がベター。カラダに定期的に刺激を与えるため、週1~3回のペースで規則的に行うといいだろう。1か月もすると、カラダが軽くなって効果が実感できる。
 さらにバイクはプログラム次第で多様なコンディショニング目的に応用できる。次ページで、4つのケースに分けて詳しく紹介しよう。

休みボケの心とカラダをお仕事モードへ

 休み明けって、何となくやる気が出ないものである。
 いわゆる休みボケ。ゴールデンウィーク、南の島にでも旅行したりすると、仕事に復帰して元の調子を取り戻すのにたっぷり1週間はかかる。
 そこでバイクを使ったフレッシュアップ・コンディショニング。のんびりしすぎで、ちょっとダラけたカラダに喝を入れるプログラムだ。
 最初はストレッチから。
 これは運動の準備でもあり、筋肉がどれくらいナマっているかを確かめる意味もある。リゾートで2~3日寝て過ごすだけで、筋肉はてきめんに衰える。それなのに普段通りで動けるつもりでいると、知らない間に無理して疲れてしまうのだ。まずは自分の筋肉の状態をストレッチで知っておきたい。立ったままで、ふくらはぎ、大腿の表裏、お尻、背中、胸、肩、頸などを下から上へと順にチェックしていくのだ。
 それからバイクに乗り、ウォームアップを10分ぐらい。最初はギヤ比2.0と軽めに設定して、RPE7~9の「非常に楽である」から「かなり楽である」のレベルで、ピッチを上げてペダリング。軽く汗ばんできたら、ギヤ比3.0に上げて、RPE11~13の「楽である」から「ややきつい」の感じでペダルを回す。
 ウォームアップができたら、ギヤ比3.0、RPE13(ややきつい)を守って10分間走る。カラダの動きが良くなったところで、ギヤ比3.5、RPE17(かなりきつい)で1分間頑張って、片足回しへ。ハンドルを両手でしっかり握り、左右交互に各10回×3セット。この片足回しで、背中、腕、腰、そしてたるんだ下半身の筋肉を適度に刺激してやる。
 その後はギヤ比2.0、RPE7~9とウォームアップと同じレベルにリセットしてクールダウン。心拍数をだんだん安静レベルに近づけていく。最後にゆっくりストレッチして終わり。
 これで休みボケから仕事モードへ一気にカラダが切り替わるはずだ。
 

働き疲れを一気に吹き飛ばす休日の過ごし方

 気の抜けないプロジェクトを任された。途中海外出張もあったりして、ずっと働きづめ。本来ならきちんと休みを取るべきだろうが、その暇もなくすぐに次の仕事の波がやってきそうだ……。
 そんな仕事人間に訪れた、貴重な休日。一日ボーッと寝ていたというのが正直なところかもしれないけれど、バイクに乗ると1時間ですっきりリフレッシュすることが可能である。溜まった疲労を一度キャンセルしてから、次の仕事に備えてカラダがアクティブに動くようにアイドリングさせておくのだ。
 最初は定番のストレッチ。デスクワークの連続でコチコチに固まった筋肉の状態を確かめるように、凝りやすい頸、肩、腰まわりなどをとくに入念に伸ばしていく。
 続いて10分間のウォームアップを行う。ギヤ比2.0と軽めにセット。ピッチを上げてペダルをどんどん回して、RPE13(ややきつい)まで上げる。固まった筋肉をややきつめの負荷で解してやるのだ。
 次はギヤ比2.0のままでペダリングを遅くして、RPE7~9の「非常に楽である」から「かなり楽である」のレベルでバイクを走らせる。少なくとも30分、体力と時間に余裕があれば60分は続けたい。軽い運動を長く続けることで、全身の血行を良くして、溜まりに溜まった老廃物の除去を促してやる。
 疲れが取れたところで、今度はリフレッシュ。スピードが出せる安全な場所を選び、ギヤ比2.0のままで10秒ダッシュを3セットやってみる。ペダルを力いっぱい踏み込み、体力の限界まで回してやる。眠っていた筋肉を、ハードなエクササイズで覚醒させるのだ。このときお尻がサドルから跳ね上がらないように。
 最初はギヤ比2.0、RPE7~9に戻してクールダウン。ダッシュで溜めた疲労物質を排出する。使った下半身を中心に、ストレッチしてフィニッシュ。これで次の仕事もバリバリこなせる態勢が整った。

就職、転職、転勤。新天地に備えて、体調を最高潮に

 本番に照準に合わせて、自分の気力と体力をだんだんピークに引き上げる。いわゆるピーキングは、スポーツ選手には欠かせない重要なコンディショニング法の一つである。
 このピーキングは、日常生活でも役立つ場面が多い。
 たとえば、新しく就職する、あるいは転職するというケース。実際に仕事が始まるまでには少し間があるが、いざスタートしたときには心身ともに最高潮に仕上げておきたい。そんなときにバイクを活用すると、うまくピーキングできるのだ。
 ここに取り上げた他のプログラムと違って、ピーキングはある程度のロングスパンで考える必要がある。1日や2日で、カラダと心テンションを頂点まで持っていくのは難しいのだ。そこで今回は、仮に3日間を1セットとして3セット、計9日間でプログラムしてみた。これを基本に、あとはスケジュールに応じて自由にアレンジしてもらいたい。
 まずは30分間で往復できそうなコースを設定する。そしてストップウォッチかクロノグラフを用意。
 1日目はギヤ比2.0にセットして、RPE7~9で軽くペダルを回して往復する。このときのタイムを測っておいて、記録する。あとは2日間とも同じコースを走り、だんだんタイムを縮めるように努力する。
 次の3日間はギヤ比3.0、RPE10~13で。さらに最後の3日間はギヤ比3.5、RPE17(かなりきつい)でやってみる。ここでも最初と同様に、タイムを比べながらできるだけ短縮するように日々努力する。
 こうして目標を決めて、自分を追い込むことで、筋力やフィジカル面だけではなく、集中力や忍耐力といったメンタル面もだんだん向上していくはずだ。
 もちろん、タイムに気を取られて体力以上の無理をしてはダメ。ストレッチ、ギヤ比2.0、RPE7~9でのウォームアップとクールダウンは決して欠かさないように。

遊びすぎた翌日も元気でいるための即効エクササイズ

 何もしないでダラ~ッとしているよりも、ある程度カラダを動かした方が体調は良くなるもの。
 とはいえ、やりすぎは禁物だ。
 週末に趣味のテニスやゴルフなんかで張り切りすぎると、月曜日がちょっと辛くなる。普段の運動量が少ない人ほどその傾向が強い。
 そこで、目一杯遊んだ後は、即効性の高いバイクトレーニングでリコンディショニング。酷使した筋肉をいたわり、カラダの疲れやだるさを翌日に持ち越さないようにリカバリーしてやるのだ。
 自宅に戻ってきたら、カンタンにストレッチしてからバイクに乗る。そしてギヤ比2.0以下、RPE7以下で7分くらい、くるくるリズミカルにペダルを回す。この程度のごく軽い負荷なら遊び疲れた後でもできるし、筋肉の負担にもならない。それでも血液の流れをスムーズにして、疲労の原因となる乳酸を排出する効果は十分である。
 バイクを降りたらオレンジジュースを飲む。念のために疲労回復効果のある果糖とクエン酸を補給するのだ。それからすぐにストレッチへ。
 頸、肩、腰、膝などの大きな関節を静かに大きく回してから、全身のおもな筋肉一つずつ伸ばす。息を吐きながら筋肉をゆっくりストレッチして、気持ちいいと感じるところでキープ。通常は20~30秒ほど静止するが、ここではリカバリー効果を確実にするために、やや長めに60秒くらい静止しよう。全身を丁寧に一通りで、おそらく30分くらいかかる。
 それでも疲れが残りそうなら入浴を。ぬるめのお湯にゆっくり浸かり、カラダの芯から温まる。お風呂から出たら、カラダがポカポカしているうちに、もう一度気になるところをストレッチする。
 このプログラムは、遊びから帰ってきた当日に行うのが原則である。しんどいのは分かるけど、疲れはその場で取ってやらないと、時間が経つほど回復が難しくなるからだ。