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スポーツ施設の現場からスポーツドクターに望むこと 北見裕史 エグザス青山カーディオ(診断と医療 1994年9月1日号)

◎要旨◎
以前、スポーツ施設の利用者は、特定の若者だけが利用する施設であったが、ここ数年、外見をよくするだけのフィットネスから健康維持・増進へと目的が変化し年齢層も若者から中高年まで幅広く取り入れられるようになった。利用者の増加とともに年々新設されてきたスポーツ施設だが、健康増進に対する充実度は施設により較差が生じはじめていた。
そこで厚生省は、運動を通じた健康づくりを目的とし、安全で効果をあげるためには適切なプログラムの下に行われなければならないことを提唱し、健康増進施設認定制度を打ち出し、また医療として指定運動療法施設認定制度を開設し、スポーツ施設でも運動療法が実施できることとなった。
スポーツクラブでも医学的及び運動生理学的根拠に基づく指導を目指すが、まだまだ学ぶべきことは多分ある。
運動療法を通じ医療とフィットネスの接点を見いだす為には双方が理解し積極的に歩み寄り精進しなければならないと考える。

【フィットネスクラブの概要】
1970年代、アメリカにおけるフィットネス産業は、ほとんどのクラブがテニス、ゴルフ等のラケットスポーツが商品とし、ほんのわずかなのスポーツクラブがボディビルダーを目指すようなフリーウェイトを利用する会員を対象とした施設が存在した。1980年代に入り、ケネス・クーパーのエアロビクス理論が普及し始めると、ジョギング、エアロビクスエクササイズなど心配持久系を主としたトレーニング方法がポピュラーとなり、ほとんどの既存施設にエアロビクススタジオとトレーニングマシンの機器が導入された。1984年以降は、年間150から200施設が新設され、我が社においてもスイミングスクールから多目的ニーズに対応すべく『エグザス』の名称でスポーツクラブを設立した。
近年、利用者が増加するとともに、クラブ参加者に大きな変化があった。
10年前までは、消費者のほとんどが、男性であれば、身体をたくましく見せるために筋力トレーニングをしたり、また女性はファッション性を高めるために痩身することなどを主流としていた。しかし、現在は老若男女を問わず利用者の幅が広がり、目的としても若い参加者が、外見をよくするためにフィットネスを行うことのみならず、健康維持、増進及びストレス発散のために参加している状況の変化を示した。平均年齢も28歳から36歳へと上昇した。そのほか雑誌、新聞記事、テレビ等からのマスコミによる健康関心度も高まり、身体の内外及び精神的にも潤いを求める場としても地域に定着
してきたのである。その後も急成長するスポーツクラブは、そろそろ成熟期をむかえはじめ、そしてバブルの崩壊とともに撤退する企業など、単にサービス志向の経営だけでなくソフト、ハード面の興味満足度を高める方針がとられはじめた。
スポーツクラブに通う消費者が知的、技術的に教育されていくのにつれて、クラブで指導するインストラクターの能力も要求されるようなったのである。

【高齢化社会での疾病】
一方、スポーツクラブが急成長しているといううものの、その人口は全国民の2%にしか過ぎず、圧倒的に会社人の運動不足は解消されていなかった。
21世紀に向かって急速なテンポで人口高齢化が進行し10年後には総人口の1/4は65歳以上の高齢者社会になると言われている。
そして国民の生活習慣の変化により、疾病構造の中心はかつての感染病から成人病へと様変わりしつつある。成人病になる人はますます増加し続け、自覚のないまま突然悪化する。また、治療によって一時的に回復してもその後も慢性的に起こってくる病気であり、加齢によって体の諸機能が衰え、そのために種々の病気にかかりやすくなり、死因の要因にもなる。対策としては、喫煙や過食などのリスクファクターを避け、定期健康診断などによる早期原因発見、そして、病気を治療し悪化を防ぐこと、機能を回復させることがあげられる。危険因子の多くは個々人の食生活や運動などの日常生活習慣に内存していることから、その予防のためには生活スタイルそのものを健康的なものに変えていくような個々人の継続的な実践努力が必要である。
また、成人病疾病が増加し、感染症減少の理由として、結核予防法といった伝染病予防のための法律や工費負担制度といった医療費の給付制度が設定、整備されたこと、予防医学の知識が普及したこと、上・下水道が普及、整備されて衛生的に安全な水が確保されたこと、食品の質の向上、量不足の解消、ストレプトマイシンなどの殺菌効果の高い医薬品が開発されたこと等があげられる。

【職場での健康づくり】
職場における健康づくり事業は、従業員が積極的に運動に取り組むことにより、健康の保持増進を図ることを目的にして実施されているものである。私どもも事業として企業フィットネス事業部を設立し、従業員の動機づけをすべくセミナー、体力測定、運動カウンセリングなどの実施をしている。しかし、企業の健康に対する取り組みを見ると、実施をしたものの、その後、従業員への結果報告や運動プログラムの作成などにとどまり継続性に欠けている。企業側から見ると医療費の高騰による健康保険財政の負担の軽減や欠勤率の低下に結び付けることを目的としているのだが、実績を蓄積するには、かなり困難となり現在はそこまでには至っていない。
健康づくりの最終的目標は運動プログラムなどへ参加するきっかけを与え、各個人に対する自覚を促し、目標を達成するよう継続して参加いただくことにある。単にイベント的に参加するのではなくプログラムを良く理解し積極的に受け入れて参加することが望まれる。
処方を作成した。

【スポーツクラブと医師の考えの相違】
スポーツクラブと健康スポーツ医には実施するうえで考え方に違いが生ずる。まず安全体制として、スポーツクラブの通常考えられる救急体制とは、救急の119番対応と近隣の病院への連絡、会社、自宅への報告などである。これに対しては医師は『療法』とつく事をするのであるから循環器専門の病院との24時間提携、立ち会う医師の知識、技術、救急薬の常備、運動中の心電図、血圧の監視、トレーニング機器の更生等の要求がある。ここで両者の考え方の違いは、スポーツクラブでは、『健常者』と『運動療法者』にさほど違いを感じていないが、医師は『療法者』に最善を尽くす体制を取っている。また、より良い高価な医療機材を求めるが、スポーツクラブ側は少しでもコストを押さえる為に必要最小限で対応しようとするためそこで価値観の相違が生じる。
健康スポーツ医の医師には循環器科、整形外科、小児科などの様々な専門知識を持つ医師が登録している。専門分野での知識、技術は高度であるが、『エグザス青山』にて実施している運動療法コースは、呼気ガスからAT値を求めて処方する方法を取っている。専門が異なる健康スポーツ医は、ガス、心電図への対応および見解の違いにより中止基準が変わってしまうなど難問を抱えている。運動処方作成においても、運動強度を設定し実施するのだが、種目が限られてしまい参加者が興味に欠け、継続することが足りず、処方としては困難であるが、筋力に対する体力トレーニング的な指導なども多く取り入れることに参加者の満足度を高めるなどして継続率をあげることを希望する。運動処方、指導するうえで運動経験も重要に考えると、スポーツクラブの健康運動士、健康運動実践指導者は運動経験を持ち、なお現在も運動実践する者が多いが、健康スポーツ医は運動経験の少ない医師が多く見られる。

【スポーツドクターに望むこと】
フィットネスと医療に始めて接点ができたのだが、スポーツクラブでの運動療法コースの位置づけは『健常者の体力の低い者』と同じに考えるが、医師は『外科療法』『薬物療法』そして『運動療法』と考えあくまでも『療法』の一つであると認識する。今後両者が意見を交換し双方が歩み寄り、相互乗り入れをすることにより社会的疾病を予防し健康づくりの場を増やすとともに貢献するよう精進していかなければならない。スポーツクラブの努力点として医学的な分野を深く知り、知識と技術を身に付けるとともに医学的角度から運動に取り組んでいかねばならない。そして、スポーツドクターに望むこととして、積極的に運動に参加し、実践的な具体化した処方を取り入れるとともに、専門以外の角度から運動およびスポーツの研究をして頂ければ幸いに思う。