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指定運動療法施設認定民間スポーツクラブでの運動療法実施における問題点(日本体育学会第47回大会 1996年9月25日号)

北見裕史(株ピープル)、伊東春樹(心臓血管研究所付属病院)、長山雅俊(昭和大学第3内科)、田辺一彦(聖マリアンナ医科大学大学第2内科)、松本晃裕(東京大学第2内科)

指定運動療法施設、運動療法、スポーツクラブ、運動指導【1、目的】
近年、運動不足による社会人の疾患(高血圧症)が問題視され、健康管理を目的とした健康保持・増進活動が盛んになっている。厚生省は、民間スポーツクラブに対して、1992年に指定運動療法施設の認定を制度化した。それに伴い、いち早くその施設認定を受け、運動療法コースを開設した民間のスポーツクラブもいくつかあったが、開設後の実施上の問題点等は明らかにされていない。
本研究では、指定運動療法施設認定民間スポーツクラブでの運動療法実施経験をもとに実施上の問題点を検討した。

【2.方法】
東京都港区エグザス青山カーディオ(1992年11月~1994年2月)合計3年3ヶ月の運動療法実施について検討した。対象は年齢21歳~65歳、男性119名、女性43名、合計162名で、これらの対象者は企業内定期検診後、運動が必要と診断された例、及び医師よりも運動により疾病改善が予想される例であった。 実施方法は、厚生省の指定運動療法施設認定制度発足直後よりエグザス青山カーディオにて認定制度に基づいて実施した。スタッフ構成は健康スポーツ医及び常勤の健康運動士・健康運動実践指導者であった。
実施内容は、1)メディカルチェック、2)心肺運動負荷テスト、3)運動処方作成、4)運動指導、5)運動実施、6)評価、の順で実施した。なお、メディカルチェックでは健康スポーツ医による問診、血液検査、形態測定を実施し、心肺運動負荷テストでは、運動強度を設定をするためにはエルゴメータまたはトレッドミルを用い、ramp負荷法による呼気ガス分析を行い、最大酸素摂取量とAT値を実測した。また、安静時と負荷中の心電図、血圧及び自覚的運動強度を記録した。運動頻度は週1回以上3ヵ月行い、実施記録表を作成するとともに健康スポーツ医・健康運動指導士・健康運動実践指導者・参加者の意見を記録した。

【3、結果と考察】

1、厚生省認定基準に則して実施したが、実施記録からみると参加者が不安に感じた点として 1)メディカルチェックの際の不手際、例えば採血手技など、2)心肺運動負荷テストでの心電図確認・血圧確認及び呼気ガス分析に対する知識不足などが挙げられた。これは健康スポーツ医の認定範囲が広いために専門知識が現場に則していない状況、すなわち運動負荷テストに習熟していない医師も多く存在することが一因として考えられた。実際、循環器内科医以外の健康スポーツ医は厚生省の定める講習会の実習・講義から習得するだけでは心肺運動負荷テストの実施に支障を来すと思われる。正確な運動負荷試験を習得できる実習の機会が必要であると思われる。
2、健康スポーツ医はメディカルチェック・心肺運動負荷テスト・運動処方戔の作成・運動中の監視等、施行すべき業務が多く、実施中の医師の占める業務の割合が大きかった。また、健康運動指導士・健康運動実践指導者においても臨床医学経験の無いものがほとんどであった。したがって、医師の占める業務の割合を削減し、円滑に業務を遂行できるようにするために、臨床検査技師の参加、健康運動指導士、健康運動実践指導者の知識と臨床技術の向上を図る必要があると考えられた。

3、健康スポーツ医から患者紹介を受け、中には陳旧性心筋梗塞や糖尿病などの合併症を有する疾患患者も参加することがあった。このような例に対しては安全確保のために医師が拘束されてしまう状況が時に生じた。従来スポーツクラブの大半が健常者を対象としており、疾病を有する患者の扱いに対して不慣れであることも混乱の一因としてあげられる。対策として、各指定運動療法施設での受け入れ可能な疾病の重症度基準を設定することと、医療機関との関係は単に緊急時や患者管理の医療提携にとどまらず、病院内での臨床上の技術指導、特に各疾患特有の病態や管理法、CPR等の救急処置の体得など、臨床的知識と技術の習得の場として活用することが重要と考えられた。

【4、結論】
指定運動療法施設認定制度の設立に伴い、認定民間スポーツクラブでの162名を対象に運動療法を実施した結果、次のことが問題点として指摘された。

1、健康スポーツ医の専門知識が不充分な場合がある。
2、医師の占める業務と責任の割合が大きい。
3、患者の参加により従来からのスポーツクラブでの参加者管理方法では円滑に業務が遂行できないことがある。
問題点をかいけつするためには以下の改善案がある。
1、循環器内科医以外の健康スポーツ医は臨床研修の場の拡大が必要であろう。
2、健康スポーツ医の業務を削減するために臨床検査技師や看護婦の導入、健康運動指導士、健康運動実践指導者の知識と臨床技術の向上が必要である。
3、各指定運動療法施設での受け入れ可能な疾病の種類とその重症度基準を設定することと、提携医療機関を有効に活用し、スタッフの技術向上を図るべきである。
以上の点を考慮し、今後指定運動療法施設の管理運営並びに質の高い運動療法を実施していくべきと考える。