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<キーワードで知る強化法 最終回>運動強度:リハビリからトップアスリートの強化まで自転車は多種多様な「運動強度」を作り出せる【サイクルスポーツ 2004年3月号掲載】

 ウエイトトレーニングをするときに、種目を決めて何kgのものを何回持ち上げるか、それを週に何回するかを決めていく。当然ではあるが「運動強度」、その「頻度」と「時間」、そして「種目」がトレーニングするうえで必要な要素になる。今回はこの中の「運動強度」について考えてみよう。

 

 歩いたり、泳いだり、自転車をこいだりすると、心拍数が高くなる。さらに、そのスピードを上げたり負荷をかけたりすると、きつくなる。運動をするときに、息が切れたり、さほどきつくなかったりしたときに、なにが変化しているかというと体に対する負荷だ。この負荷の強弱を運動強度という。運動強度を知るためには、スピードや心拍数で確認したり、重りの重量で確認したりする。

 それでは、運動強度の最もキツイ状態と最も軽い状態はどのようにして見つけられるのだろうか。歩行ならば速度を上げることで強度が上がる。速歩きからジョギングになりランニングになる。別な方法は坂道。勾配が緩いところから、だんだんきつい坂道を上る。

 強度を下げるためには、限りなくゆっくり歩く、ゆっくり泳ぐなどがある。しかし、体重か重い人がゆっくり歩いても体重より軽い負荷は作れない。どんなにゆっくり泳いでも、泳ぎ慣れていない人に強度を下げるのは難しい。

 自転車を利用しての運動強度だと、走行速度や坂道を利用して強度を変えられるし、機械的に負荷をかけて細かく強度設定もできる。サドルに座るために体重より軽い負荷で、かつギヤを軽くすることで限りなくゼロに近い運動強度にもできる。それゆえ自転車はリハビリテーション時からトップ選手のトレーニングにまで対応できるオールマイティーツールだ。

 

 さて、運動強度の設定方法だが、池上晴夫著『運動処方』から引用すると、ある強度以上の運動には危険の可能性がある限界を「安全限界」と呼び、ある強度以下の運動では効果が十分でない限界を「有効限界」と呼ぶ。

 両限界ともに、体力の優劣による身体条件によって違う。すなわち身体条件の劣るものほど低く、優れるものほど高い傾向にある。しかしこの勾配が異なるために、図の2本の線は1点Aで交差する。交差の意味は安全限界が有効限界より低くなる人も存在するということだ。その人にとって運動は強度に変化をつけてもすべて危険であることを意味する。つまり運動禁止状態である。

 A点より右側では安全限界より有効限界が低く、この両限界にはさまれた斜線の部分が安全かつ有効な領域であり、運動強度を設定できる。この領域の垂直方向の高さは運動強度の選択の幅であり、体力の弱い人では運動内容を厳しく規定し、身体条件の優れている人では自由度が大きい為に運動内容をそれほど厳しく規定する必要はないとされる。強度を決めるとき、すべての人に対して常に念頭に置くべき考え方である。

 たとえば、運動選手のトレーニングメニューで心拍数150拍の運動強度で30分自転車をこぐとき、設定心拍数より±10拍変化したとしても自由度が大きいので厳しく規定しなくても良いと考える。

 しかし、心疾患の術後のリハビリでは、心肺運動負荷テストの結果からAT(無酸素性作業閾値)レベルでの運動処方が出たときに固定自転車の強度を30W、50Wというおよその値ではなく34W、28Wと1W刻みで処方する。しかもそのマシンの精度はどのくらいか、較正はできているか。精度が低ければトルクゲージで確認し補正式を作るなどする。自由度が狭いため、および安全限界を絶対に超えてはならないために強度にこだわるからだ。

 強度設定が作りやすいので、サッカーのベッカムもリハビリ時に自転車を使ったトレーニングを取り入れている。私の指導も4~91歳、リハビリから五輪選手の強化まで、自転車を使ってトレーニングすることで効果を得ている。目標に手が届く近道として、運動強度に注目して安全で効果的なトレーニングを実践しよう。

 

 今回で「キーワードで知る強化法」は終了です。さまざまなメディアからトレーニングの情報がたくさん入ってきます。そのとき、その情報が自分に合っているかを見極める目を身につけて目標に向かってトレーニングを実践してください。長い間お付き合いいただきありがとうございました。