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短い時間でタフなカラダを作る しなやかボディとATランで速く走る、遠くへ走る【サイクルスポーツ掲載 2001年6月号】

距離が長いからといって、やみくもに走れば良いってモンじゃない。自分のコンディションを知り、心拍数を目安に効果的な走りを目指せ!

スピードや順位を争うレースじゃないんだし、グランドツーリングに大切なのは理屈より根性という人もいるだろう。たしかに高い目標意識を持つ事も大切だが、必要な事はそれだけじゃない。そもそもコチコチに凝った肩では景色を楽しむ事はできないし、首が弱くて頭を上げているのもツラいというようでは危険というもの。<長距離=長距離サイクリング>だから、スピードは遅くても体にかかる負担は、ボディーブローのようにジワジワっと効いてくる。
 そんなわけでサンデーサイクリストは、脚力や心肺機能を高めると同時に、まずは肩、腰、首を鍛えるところから始めよう。普段、肩こりや腰痛のない人だって、距離や時間が長くなれば痛みが出てくる可能性は大きい。鍛えてそんな事はない。また鍛えるといっても、ジムに通う必要はない。ダンベルがあればベストだけど、なければ買い物袋に砂をつめてもイイ。
 大事なことは、軽い負荷でも正しいフォームで行うこと。そうすれば、筋肉は必ず強くなる。
 ロングライドの基本は速く走るよりも、長く自転車に乗って楽しむ事だ。巡航スピードは速いけど休憩がこまめに必要なウサギタイプなら、持久力をつければ、さらに距離を延ばす事ができる。逆に走行速度が遅いカメタイプだって、スピードを身につければセンチュリーラン完走は十分に可能だ。
 どちらのタイプにしても、効率的に走る事ができれば距離に対する不安はなくなる。そこで、航続距離を延ばすために心拍系を使って走ってみよう。
 運動には有酸素運動と無酸素運動があるのは聞いたことがあるだろう。具体的にいえば、平地でゆっくり走っているときは有酸素運動。スプリントやヒルクライムで苦しい時は無酸素でボクらは走っている。ここからが問題。
 有酸素運動は脂肪をエネルギーとし、水と二酸化炭素を汗と呼吸から排出する。一方の無酸素運動は体に蓄えたグリコーゲンを酸素なしで分解し、疲労物質の乳酸を出す。この乳酸が一定以上たまると筋肉が硬くなり、結果として筋肉は収縮できなくなる。
 すなわち、有酸素運動ならいつまでも自転車に乗っていられるけど、無酸素運動では短時間で体は動かなくなるということ。ドーバー海峡スイムやウルトラトライアスロンができるのは、有酸素運送だからだ。で、この運動の境になるのがAT値と呼ばれる運動強度だ。
 無酸素性作業閾値と呼ばれるAT値は、心拍数で推定できる。トレーニングしてない人では最大心拍数の57%、トレーニングしている人だと数値はそれよりも高くなる。正確なデータを知るためには、トップアスリートが行うような大がかりな設備も必要となるし、今回はおおよその数値で十分。効果の出る方法をストレングス&コンディショニングコーチの北見裕史さんに作ってもらったので、参考にしてほしい。
 しなやかな体と、無理なく運動を続けられる強度を手に入れれば、効果的にどこまでも走れる。長距離を走るために必要なのは、根性よりも理屈。あとは実践するだけだ。

まずは体のしなやかさをチェックする

○印=とてもよい状態 △印=少し注意 ×印=頑張ろう!

1.首は左右に大きく1回転したとき痛みなど違和感なく回せる?

 ○:回せる △:少し引っかかる ×:痛くてまわせない

2.肩甲骨の後ろで左右の腕を組むことができる?

 ○:組める △:指の先が届く ×:届かない

3.立位体前屈で手のひらが床につく?

 ○:手のひらがつく 三角:指の先がつく ×:つかない

4.あおむけに寝て、片足が垂直に上げられるか?

 ○:ラクに上げられる △:無理すれば上がる ×:ひざが曲がって上がらない

5.ヒザを立てて上体を起こす腹筋運動が20回

 ○:できる △:反動をつければできる ×足が浮いて上がらない

 1と2のテストで『頑張ろう』&『少し注意』の人は首まわりのストレッチと肩、周辺のコンディショニングが必要だ。ラテラルレイズ、ショルダーシュラッグ、アップライトローで三角筋、僧帽筋など肩まわりの筋肉を強化しよう。2kgのダンベルで回数は10回。慣れてきたら回数を15→20→30→40→50回に増やしていく。ラクにできるようになったら、動作を大きく正確に行なう。筋への集中力と柔軟性を高め、関節の可動域を大きくすることが重要だ。
 3、4、5テストで『頑張ろう』&『少し注意』の人は、腰、背中などの背面のコンディショニングが必要。ストレッチとレッグランジ、レッグカールデットリフト、グッドモーニングなどのウエイトトレーニングを取り入れよう。これも低重量、高回数(50回までの反復)で動作を大きく正確に行なう。ペダリングのときは、ヒザが伸びきらず、また縮みきらない状態を続けるため、筋肉が常に緊張する。そのため収縮力が低下し、柔軟性も低下する。筋肉が硬くなれば疲れをためるためやすくなるので、ストレッチで関節の可動域を拡大させることが必要だ。

ショルダーシュラッグ

背筋を伸ばしてアゴを引く。両腕を自然に降ろして肩を耳につけるようにダンベルを持ち上げる。

ラテラルレイズ

足を肩幅に開き、軽く前傾姿勢をとる。軽くヒジを曲げて、息を吸いながら真横にゆっくりと肩の高さまで上げる。

アップライトロー

腕を完全に下ろした状態から、体のすぐ前でヒジが肩よりも高くなる位置までダンベルを引き上げる。

すべてはストレッチに始まり、ストレッチに終わる

 ロングライドなら時間も長いし、最初から飛ばさなければ準備運動なんていらない・・・。そんな考えでは、速く走る事も、距離を延ばすこともできない。運動中のストレッチ効果は短時間なので、スタート前はもちろん、ロングライドなら休憩するときもマメに行いたい。そして、運動後はさらに20種目ぐらいを細かく長めに行おう。ストレッチには関節可動範囲を広げて筋肉の柔軟性を上げる効果のほかに、精神的な覚醒、ケガの予防、筋肉痛の軽減など多岐にわたる。筋肉は激しい運動で疲労しても、逆に何もしなくても柔軟性が落ちてしまう。トレーニングを増やしたら柔軟性が落ちてしまったなんてことのないように、必ず体を動かす前と後にはストレッチングしよう。また、ペダリングで使う関節の範囲を超えた可動域も使って筋肉を多く動員させる事ことも、速く遠く走るためには欠かせない。

ヒルクライムでAT値を見つける

ギヤ比が2.0~4.0の自転車と心拍計。そして、30分くらい緩やかな勾配が続く上り道で運動負荷テストをしてみよう。
(1)始める前に2分間安静の心拍数を測る。
(2)インナー×ローで2分間、ペダルを1分間に50~60回転で上って心拍数をチェックする。
(3)2分ごとにギヤを一枚ずつ重くしていく。
 ギヤ比に対する心拍数の記録をしていくと、ある地点から急にきつくなる。そのポイントがATレベル(無酸素性作業閾値)の強度と仮定する。2~3日後、ATレベルのギヤに決めて、変速せずに30分上ってみて、上りきれれば仮定どおりと考えて、その時の心拍数が基準となる。もし、途中できつくなって回転が保てなかったり、著しく心拍数が増えたらATレベルを超えていると考える。そのときは後日、ギヤを一枚落としてまた挑戦する。このテストの結果から決まった心拍数がロングライドの基本となる心拍数ということだ。

平地でAT値を知る!

 近くに峠のない人でもAT値を調べる事はできる。平坦で30分以上ノンストップで走れるコースか、負荷機能つきローラー台を用意する。そして、[(220-年齢-安静時心拍数)×0.6+安静時心拍数]=目標心拍数と仮定する。その心拍数になるように80~100回転でギヤを決めて30分間走ってみる。余裕があればギヤを一枚重くしてプラス5拍で挑戦し、続かなければ逆に1枚ギヤを軽くしてマイナス5拍で走ってみる。ヒルクライムと同じく、30分以上続いて会話ができる余裕があれば、そこがキミのターゲット心拍数だ。

目標心拍数の出し方

[(220-年齢-安静時心拍数)×0.6+安静時心拍数]=目標心拍数

年齢が30歳の場合、平常時心拍数が70の人の場合。
[(220-30-70)×0.6+70]=142拍/分

 ターゲット心拍数を見つけたら、その心拍数に近づけるようにマメに変速して走る。定期的にトレーニングすれば、たった3週間で効果は現れ始める。週1回しか乗れなくても3ヶ月もすれば効果を体感できる。効果を実感できたら、またテストをやってみよう。前よりギヤ比が大きくなったり、同じギヤ比で心拍数が低下していたら効果があったということだ。エアロビック運動は継続することが大切。少しずつでも継続的に行うことで、航続速度も走行距離も確実に伸びる。

簡易テストでも効果を発揮する

 正確なAT値を知るには固定自転車やトレッドミルを使って、漸増負荷をかけたときの実際の呼気の酸素量を測定する心肺運動負荷テストが一般的だ。正確なAT値は酸素を取り込む量、ガス交換比、乳酸値、血圧上昇、心拍数上昇を考察して求めるのが安全で効果的なよい方法だ。ただし、数値はトレーニングによって変化するため定期的に測定する必要がある。そこで施設や費用をかけずに測定する方法に挑戦した。北見コーチは医師と提携してATの研究をしている。ここで紹介したAT値はその研究を利用した方法なので、効果的なトレーニングやロングライドの目安になるはず。

補助トレーニング

トレーニング写真 フェンスの上に片足を載せて足と反対側の手を添えて、胸を張ったまま上半身を前方に曲げていく。硬くなったハムストリングスがジワジワと伸びる感じのところで止める。延ばしている時間が短いと柔軟性は高まるどころか、筋肉が硬くなってしまうので最低でも10秒以上はキープする。

トレーニング写真 片方を伸ばして座り、もう片方の足首を股関節に近づける。ヒザに軽く両手を載せて猫背にならないように上半身を前方へ曲げていく。すると、太もも裏側のハムストリングスがストレッチされる。呼吸しながらゆっくりとジワーと伸ばす。

トレーニング写真 ペダリングの高さは30cmの階段を上っているよなもの。箱や階段を使って伸び上がる動作をすることで、関節可動域を大きくする事ができる。筋の収縮スピードが速くなれば、パワーも上がるということだ。

トレーニング写真 ペダルストローク以上のレンジを使ったトレーニング。普段自転車で使っていない筋肉を呼び起こしてロングライドに適用しよう! 階段を2段飛ばし、または3段飛ばしでヒザをモモに引きつけながらリズミカルに上ってみよう。